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Transformerのエンコーダーとデコーダーを知っておこう

Transfomerのエンコーダーとデコーダーを理解することは、Self-Attention機構とMulti-Headを別の観点で理解することにもなります。またRAGシステムの処理についても理解が深まると思います。



 

この記事からわかること:

・トランスフォーマーモデルの基本的な構造と動作原理

・エンコーダーとデコーダーの役割と重要性

・自己注意層、エンコーダー-デコーダー注意層、位置ごとの全結合フィードフォワードネットワーク(FFN)の処理プロセスと機能

・RAGシステムにおけるトランスフォーマーモデルの活用方法と重要性

トランスフォーマーモデルとRAGシステムの今後の発展可能性と研究課題



 

目次:



 

第1章 はじめに


トランスフォーマーモデルは、自然言語処理の分野において革新的な進歩をもたらした機械学習モデルである。特に、翻訳や要約、質問応答など、シーケンスからシーケンスへの変換を必要とするタスクにおいて、トランスフォーマーモデルは優れた性能を示している。

トランスフォーマーモデルの中核をなすのは、エンコーダーとデコーダーと呼ばれる2つの主要な構成要素である。


エンコーダーは入力テキストを理解し、その意味表現を生成する役割を担っている。一方、デコーダーはエンコーダーが生成した意味表現を元に、目的のテキストを生成する。


近年では、トランスフォーマーモデルをベースにしたRAG(Retrieval-Augmented Generation)システムが注目を集めている。RAGシステムは、トランスフォーマーモデルの生成能力と、外部のナレッジベースからの情報検索を組み合わせることで、より高度な自然言語処理タスクを可能にしている。


本記事では、トランスフォーマーモデルの主要な構成要素であるエンコーダーとデコーダーの役割と機能について詳しく解説し、RAGシステムにおけるトランスフォーマーの活用についても触れていく。


 

第2章 エンコーダー


エンコーダーは、トランスフォーマーモデルにおいて入力テキストの理解を担う重要な構成要素である。エンコーダーは、入力テキストを単語や文字などのトークンに分割し、各トークンを高次元のベクトル表現に変換する。この過程で、エンコーダーは自己アテンション層と位置ごとの全結合フィードフォワードネットワークを活用する。


自己アテンション層は、入力テキスト内の各トークンが他のトークンとどのように関連しているか。例えば、「私は昨日、友人とカフェで会った。」という文において、「私」と「会った」の関係性を理解することができる。自己アテンション層は、各トークンに対して注意を払い、その関連性を捉えることで、入力テキストの文脈を考慮した表現を生成する。


位置ごとの全結合フィードフォワードネットワークは、Self-Attetion層の出力を受け取り、各トークンの表現をさらに洗練する。このネットワークは、各トークンに独立して適用され、非線形変換を行うことで、より複雑な特徴を捉えることができる。


RAGシステムにおいて、エンコーダーは入力テキストの意味表現を生成するという重要な役割を担っている。RAGシステムは、この意味表現を利用して外部のナレッジベースから関連する情報を検索し、その情報をデコーダーに提供することで、より高度な自然言語処理タスクを実現している。


 

第3章 デコーダー


デコーダーは、エンコーダーが生成した意味表現を元に、目的のテキストを生成する役割を担っている。デコーダーは、自己アテンション層、エンコーダー-デコーダー注意層、位置ごとの全結合フィードフォワードネットワークから構成されている。


デコーダーのSelf-Attention層は、エンコーダーのSelf-Attention層と類似しているが、生成されるテキストの因果関係を保持するために、未来の情報を参照することはできない。つまり、デコーダーは過去の出力のみを考慮して、次の単語を予測する。


エンコーダー-デコーダー注意層は、デコーダーがエンコーダーの出力(入力テキストの意味表現)を参照しながら、出力テキストを生成するために重要な役割を果たしている。この層は、デコーダーの各時点において、エンコーダーの出力のどの部分に注意を払うべきかを決定する。これにより、デコーダーは入力テキストの関連部分を考慮しながら、出力テキストを生成することができる。


位置ごとの全結合フィードフォワードネットワークは、エンコーダーと同様に、各トークンの表現を洗練するために使用される。


RAGシステムにおいて、デコーダーは、エンコーダーが生成した意味表現と、外部のナレッジベースから検索された情報を組み合わせて、最終的な出力テキストを生成する。この過程で、エンコーダー-デコーダー注意層は、ナレッジベースから得られた情報を適切に利用するために重要な役割を果たしている。


 

第4章 位置ごとの全結合フィードフォワードネットワーク(FFN)


位置ごとの全結合フィードフォワードネットワーク(FFN)は、トランスフォーマーモデルのエンコーダーとデコーダーの両方に存在し、Self-Attention層の出力をさらに処理するために使用される。FFNの主な目的は、各トークンの表現を洗練し、より複雑な特徴を捉えることである。


FFNは、2つの線形変換(全結合層)と、それらの間に適用される非線形活性化関数(通常はReLU)で構成されている。


数式で表現すると、FFN(x) = max(0, xW1 + b1)W2 + b2 となる。

ここで、xは入力ベクトル、W1とW2は重み行列、b1とb2はバイアスベクトルである。


ReLU関数は、入力が正の場合はそのまま出力し、負の場合は0を出力する。


FFNの重要な特徴の1つは、位置独立性である。つまり、FFNは各トークンに独立して適用され、その位置に関係なく同じ処理を行う。これにより、トークンの位置に依存しない特徴を学習することができる。


RAGシステムにおいて、FFNは、エンコーダーとデコーダーの両方で重要な役割を果たしている。エンコーダーでは、FFNはSelf-Attention層の出力を処理し、入力テキストのより豊かな表現を生成する。


デコーダーでは、FFNはSelf-Attention層とエンコーダー-デコーダーSelf-Attention層の出力を両方処理し、出力テキストの生成に役立てる。


以上が、トランスフォーマーモデルの位置ごとの全結合フィードフォワードネットワーク(FFN)の説明である。FFNは、Self-Attention層と組み合わせることで、トークンの表現を洗練し、より複雑な特徴を捉えることができる。RAGシステムにおいても、FFNはエンコーダーとデコーダーの両方で重要な役割を果たしている。


 

第5章 Self-Attention層の処理プロセス


Self-Attention層は、トランスフォーマーモデルの中核をなす構成要素であり、入力テキストの各トークンが他のトークンとどのように関連しているかを学習する。Self-Attention層の処理プロセスは、以下のステップで構成されている。


①入力テキストをトークンに分割し、各トークンを埋め込みベクトルに変換する。


②各トークンに対して、クエリ(Q)、キー(K)、バリュー(V)の3つのベクトルを生成する。これらのベクトルは、それぞれ異なる重み行列を用いて入力ベクトルから計算される。


③各トークンのクエリベクトルと、すべてのトークンのキーベクトルの内積を計算し、スケーリングを行う。これにより、各トークンが他のトークンとどの程度関連しているかを表すAttentionスコアが得られる。


④Attentionスコアにソフトマックス関数を適用し、確率分布を得る。これにより、各トークンが他のトークンにどの程度注意を払うべきかが決定される。


④確率分布とバリューベクトルを乗算し、加重和を計算する。これにより、各トークンの新しい表現が得られる。

例えば、「猫が草の上で寝ている。」という文を考えると、Self-Attention層は「猫」と「寝ている」の関連性を高く評価し、これらのトークンの表現を更新する。


RAGシステムにおいて、Self-Attention層は入力テキストの意味表現を生成するために重要な役割を果たしている。この意味表現は、外部のナレッジベースから関連情報を検索するために使用される。


 

第6章 エンコーダー-デコーダーAttention層の処理プロセス


エンコーダー-デコーダーAttention層は、デコーダーがエンコーダーの出力(入力テキストの意味表現)を参照しながら、出力テキストを生成するために使用される。この層の処理プロセスは、以下のステップで構成されている。


①エンコーダーの出力(各トークンの意味表現)を、キー(K)とバリュー(V)のペアとして保持する。


②デコーダーの各時点において、現在のデコーダーの状態からクエリ(Q)ベクトルを生成する。


③クエリベクトルと、すべてのエンコーダーの出力のキーベクトルの内積を計算し、スケーリングを行う。これにより、デコーダーの現在の状態と、エンコーダーの各トークンの関連性を表すAttentionスコアが得られる。


④注意スコアにソフトマックス関数を適用し、確率分布を得る。これにより、デコーダーがエンコーダーの各トークンにどの程度注意を払うべきかが決定される。


⑤確率分布とエンコーダーの出力のバリューベクトルを乗算し、加重和を計算する。これにより、デコーダーの現在の状態に関連するエンコーダーの情報が集約される。

例えば、英語からフランス語への翻訳タスクにおいて、エンコーダー-デコーダーAttention層は、フランス語の各単語を生成する際に、英語の関連する単語に注意を払うことができる。


 

第7章 FFNの処理プロセスと出力データ


位置ごとの全結合フィードフォワードネットワーク(FFN)は、自己注意層やエンコーダー-デコーダー注意層の出力をさらに処理し、各トークンの表現を洗練する。FFNの処理プロセスは、以下のステップで構成されている。


①自己注意層やエンコーダー-デコーダー注意層の出力を、FFNの入力として受け取る。


②入力ベクトルに対して、第1の線形変換を適用する。これにより、入力ベクトルは高次元の中間表現に変換される。


③中間表現にReLU活性化関数を適用する。ReLUは、入力が正の場合はそのまま出力し、負の場合は0を出力する。これにより、非線形性が導入され、より複雑な特徴を捉えることができる。


④ReLUの出力に対して、第2の線形変換を適用する。これにより、中間表現はFFNの出力次元に変換される。


FFNの出力は、各トークンの洗練された表現である。この表現は、自己注意層やエンコーダー-デコーダー注意層によって捉えられた文脈情報を含んでおり、より豊かな意味を持っている。


例えば、「私は昨日、公園で犬を見かけました。」という文を考えると、FFNは「犬」というトークンの表現を、「公園」や「見かけました」といったトークンの文脈を考慮して更新する。これにより、「犬」の表現は、単に動物としての犬を表すだけでなく、公園で見かけたという文脈も含むようになる。


 

第8章 RAGシステムとトランスフォーマーの統合


RAG(Retrieval-Augmented Generation)システムは、トランスフォーマーモデルの生成能力と、外部のナレッジベースからの情報検索を組み合わせることで、より高度な自然言語処理タスクを可能にするシステムである。RAGシステムは、以下のような構成になっている。


・エンコーダー: 入力テキストを受け取り、その意味表現を生成する。


・検索モジュール: エンコーダーが生成した意味表現を使用して、外部のナレッジベースから関連情報を検索する。


・デコーダー: エンコーダーの出力と、検索モジュールが取得した関連情報を組み合わせて、最終的な出力テキストを生成する。


トランスフォーマーモデルは、RAGシステムのエンコーダーとデコーダーの両方で使用されている。エンコーダーでは、トランスフォーマーモデルは入力テキストの意味表現を生成するために使用される。この意味表現は、検索モジュールが外部のナレッジベースから関連情報を取得するために重要な役割を果たす。


デコーダーでは、トランスフォーマーモデルは、エンコーダーの出力と検索モジュールが取得した関連情報を組み合わせて、最終的な出力テキストを生成するために使用される。デコーダーのエンコーダー-デコーダーAttention層は、ナレッジベースから得られた情報を適切に利用するために重要である。


RAGシステムにおけるトランスフォーマーの役割は、単なるテキスト生成にとどまらない。トランスフォーマーモデルは、入力テキストの意味を深く理解し、外部の知識を適切に活用することで、より高度な自然言語処理タスクを可能にしている。


 

第9章 まとめ


本記事では、トランスフォーマーモデルの主要な構成要素であるエンコーダーとデコーダーの役割と機能について詳しく解説した。エンコーダーは入力テキストの意味表現を生成し、デコーダーはその意味表現を元に出力テキストを生成する。また、自己注意層やエンコーダー-デコーダー注意層、位置ごとの全結合フィードフォワードネットワーク(FFN)といった重要な要素についても、その処理プロセスと役割を説明した。


さらに、RAGシステムにおけるトランスフォーマーの活用と重要性についても言及した。RAGシステムは、トランスフォーマーモデルの生成能力と外部のナレッジベースからの情報検索を組み合わせることで、より高度な自然言語処理タスクを可能にしている。トランスフォーマーモデルは、RAGシステムのエンコーダーとデコーダーの両方で重要な役割を果たしており、入力テキストの意味を深く理解し、外部の知識を適切に活用することで、システム全体の性能を向上させている。


トランスフォーマーモデルとRAGシステムは、自然言語処理の分野において大きな可能性を秘めている。今後、これらの技術がさらに発展し、より複雑で多様な自然言語処理タスクに応用されていくことが期待される。






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